共鳴音(声楽)の体系的とその実証についての研究(その2)
「理想的発声と共鳴音の関係、今回は低音部ド(C)-ファ(F)を中心として」

〔緒言〕
要するに、声楽的によい発声とは、どんな表現が出来る声であるか調べてみた。それによると、「雑音を伴わず、圧迫や持続的な過度の緊張がなく、高音で強弱が意のままに出来、よく声がとおり、豊かなひびきを持ち、柔らかく、苦しそうでない声、澄みきって、にごりがなく、前出音的色彩を持ち、ハーモニーしやすい。自己の声域内は、どの音も自由にあらゆる表現が出来る。音楽的によくひびく声、etc」
今回は高音部のどの声種も使うド-ファの部分にしぼって、徹底分析を試みた。

イ)自然に無理なく感じる音(声)
自然界を見ると、夏蝉のひびく音は、人間に換算したら人間は現在の何十倍にも値する音量が出て良い筈である。秋の鈴虫の声は、人間に思い思いの情感をそそり、春「うぐいす」は心をなごます季節のおとずれを感じさせます。しかし今ここで述べる人声の無理のない発声とは、音よく使用された自然的発声(中声的発声)とはちょっと違います。人間が経験、科学の実習を経て考案された各共鳴器の共振周波数が接近し、音量が増幅活動し、倍音を伴った各人独特な深みの音色が必要となってくるのです。

ロ)高音部の具体的作音の方法例
一般的な発声から更に上胸部強制振動を加振することにより共鳴器に増量させることは(その1)で確認できた。しかし、音楽的に見て、上胸部加振により増音された声に、音楽的色彩が伴わないで、例えばトレモロ現象をおこすことにならないように留意する点と音色が美的存在の中に常に動いているかについて見極めである。これを防ぐ方法として次のことが考えられる。復習すると、
@S振の微妙なゆれコントロールにより調整する
A口唇、ノドの位置変化の動きにより美的音色になるように耳で矯正する
Bそれにつれて氣息のコントロールを敏感にする
C常に批判的な耳を働かせる。次の表は高音各音の注意を記述した(別表A)

下の各音がS振による上胸部の振動共鳴音を基盤として発声する
方法 mf(メゾフォルテ)少し大きく mezza voce(メッツァボーチェ)半分の声 mezza divoce(メッツァディボーチェ)PPからFF、PPへ



C
●その(1)のHum、と前歯にひびかす
●ひざの反作用で声が楽にはずみ丸味のあるひびきに注意
●声が前に出ている
●微妙な弱いS振で流れるように
●声帯に息を柔らかくあてる
●mfにくらべノドは動いている
●アエイオ
●特にイオの大きくするとき、ひざ、ノドのひらき両手を工夫する
シャープ

ド#

cio
同上

●母音ハッキリと発音
●共鳴キーの均整のあるひびきに注意
同上

●弱いデリケートなS振で、全体にやさしくひびかせる
●両手はすこしずつ水平にあげ胸をひらく
同上

●少し鼻を、後頭部のひびきを入れてバランスのある発声



D
同上

ノドの奥を少し開く感じ
アゴのつけ根柔らかく動かす
同上

●その1のHum、前歯にひびかす練習を忘れない
同上

両手を水平にあげて胸を開く感じで
シャープ

レ#

dio
同上

●自由な動きでこわばらない
●胸の筋肉に力をいれない
同上

●特に声のツヤを忘れないように
●PPの美しさも練習する
同上

●S振でゴムまりがはずむように反作用を利用する



E
同上

●特に前歯のひびきの練習をしっかりと
●後頭部のひびきでバランスをとる
同上

●S振の微妙なゆれを意識して
同上

ffになる箇所をシャウト(さけび声)にならないように上胸、後頭部のひびきに注意

ファ

F
同上

●特に前歯と後頭部のひびきがバランスよく(テープで聞く)
同上

●表情がかたくならぬように常に掃情的な感じで
同上

●ゆったりした気持ちで発声
●上胸、後頭部のひびき、丸味をもって

 

ハ)演奏の範例と共鳴音との関係
@CHARLES、PANZERA(シャルル、パンゼラ)が唱うFAURE(フォーレ)作曲Verlaine(ヴェルネーヌ)詩による「ひめやかにEnsourdine」の最後のPP(ピアニッシモ)のEis ミb)の絶妙な美しさはすばらしい。やはりフランス人歌手は鼻腔の共鳴を大切に(言語的にもよるが)しているだけあって、そこから生じた結晶は価値がある。私の考えている発声では、前表(A)のメッツァ、ボーチェの出し方を更に氣息もS振も小さくコンとロールして、共鳴にひびかすと、ひびきのあるPPが出ると思う。
A「かうたちの花」の最後の部分PPPをどう考えるか
色々声種によって調(キー)が変わると思うが、一番自己の歌い易い調を設定して@と同様にmezza voceからの工夫により解決できると思う。
B高音部で自由な曲想表現が出来る
ふるさと(斉藤曲)の終りの部分を例にとってみると、今、図音@の3)番の終り「ても」も「て」をフエルマータで2拍のばし「も」もフエルマータを4拍のばすとし、曲想の「て」をmf−f位の大きさで「も」をPでだんだん消えてゆくように設定したとする。唱って見ると最後の「も」の終りがなかなかうまく消えてゆくように歌えない。途切れたり、ひっくりかえったり、発音の正確さを考えたりした時、今回の「始めに記述したよい発声」とは高音が意のままに出ると言う説明が身にしみてくると思う。本研究はそこを解決すべく進められてきている。
C高音のff(フォルテシモ)最も強く、cresfクレシェンドフォルテ、だんだん強くして大きく。を考える。





この曲は唯自分の持てる声量をいくら出しても、荒波の荒れ狂っている感じはあまり出ません。これはエネルギー的声量を共に1音1音、アクセントとマルカートを一緒にした発声が望まれます。特にそのために反作用を利用したS振のはげしい強い加振が必要となる。「なみたち」の「ち」は演奏効果のため、わざと「な」は小さめにして急激なクレシェンドを生かす。特にffの場合はS振の反作用的効果が必要である。

ニ)S振動、反作用、2次上胸部振動の意義
人間が声帯に肺からの呼氣圧により、声帯を摩擦して音声を発する。いわゆる自然発生に対して、直接発声には関係のない反作用、S振運動のエネルギーから上胸部に振動エネルギーを与え、それが自然発声と結びついた場合、より音声の増幅につながる現象は自励振動(ジレイシンドウ)として物理学的にも認められている。音楽の場合、増幅された音量の内、騒音に関係したものは除去して、音楽的共鳴音を選択する作業が残っている。


〔結語〕
特に今回は高音についての研究をしてきたが声域の中で一番自由な表現が出来にくいのが高音部です。mf(メゾフォルテ)で共鳴音を出す時でさえも、何となく苦しそうな音色はかくせません。これは明らかに高音発声時に共鳴する部分のひびきのバランスが悪いためです。共鳴期に平均してひびかせると、かえってあがいてどうにもならなくなります。
家でも、いくら外形を飾っても、大地についている土台(基礎)の部分が堅牢でなければ地震などの強い振動には耐えられません。それが出来た後に、上部を確実に保護する筋交(スジカイ)が生きてきます。ニ)で説明した通り土台部分にあたる上胸部のひびきを中心として、常に丸みある、楽に感じる発声を心がけて学習します。